・大手監査法人と中堅(準大手・中小)の違い
・公認会計士のファーストキャリアは大手監査法人がオススメである理由
例年では11月の公認会計士試験に合格発表後は、喜んでいるのもつかの間、すぐに就活(定期採用)を始めなければいけません。
就活の際に監査法人の説明会やイベントに行くと思うのですが、どの監査法人も似たような説明が多くて、監査法人の違いとか特徴とかが分かりにくいと思います。
そこで、公認会計士として実際に大手監査法人に勤めて感じた「大手監査法人と中堅監査法人の違い」をまとめてみました。
目次
大手監査法人の特徴

大手監査法人(4大監査法人やBIG4と呼ばれます)は次の4法人です。
・EY新日本有限責任監査法人
・有限責任監査法人トーマツ
・有限責任あずさ監査法人(KPMG)
・PwCあらた有限責任監査法人
この記事で解説する大手監査法人の特徴は、これら4法人に大体当てはまる特徴だと考えてください。
クライアントの種類と数が豊富
大手監査法人だけで上場企業の60%~70%のクライアントを抱えています。
なので、大手監査法人に入れば、様々な業種の監査を経験できる可能性があります。
また、同じ業種でも、昔ながらの日本の大企業から最近のベンチャー企業まで、規模やビジネスの中身が違うことも多々あります。
このように様々な視点からクライアントを監査できるのは、大手監査法人の特権と言ってもいいかもしれません。
ちょっと注意したいのが、BIG4の中でもPwCあらたです。
PwCあらたは大手監査法人の中では規模が小さいので、一部の業種はカバーできていないです。
PwCあらたに興味がある人は、希望の業種をクライアントとして持っているか、きちんとチェックしたほうが安心です。
監査マニュアル・研修がしっかりしている
会計・監査の業界は、新たな会計基準や監査手続が毎年のように出てきます。
それらを個人でキャッチアップするのはとても大変ですし、正しく情報を理解するのも難しいです。
大手監査法人では、そういった最新の情報をアナウンスしてくれます。
法人によっては品質管理や教育といった観点から、専門の部署があります。
重要度の高い情報は必ず研修が作られて、それを受講しないと社内評価に響くこともあります。
強制的に勉強する量が多くなるので聞こえは悪いかもしれませんが、会計の専門家として効率よく勉強させてもらっていると言ったほうがいいです。
こういったことができるのは、人も資金力もある大手監査法人ならではと言っていいでしょう。
最新のシステムが使える
監査の現場にいると、様々なデジタルツールが導入されていることに気づきます。
大手監査法人は最新のデジタルに対して、投資を積極的に行っている印象があります。
そのため、最新の監査ツールを開発して使えるようにしたり、サードパーティーの最新のデジタルツールを導入して、作業効率化を進めています。
こういったシステムの導入には、どうしてもお金が必要です。
大手監査法人はグローバルファームに属していますので、大きな資金力を持ってデジタルへの投資を行えます。
そのため、現場の会計士は最新のシステムに触れる機会が多いです。
こういったデジタルの整備が整っていると、仕事はとてもしやすいと感じます。
最新のパソコンと旧世代のパソコン、どっちで作業したら仕事が早く終わるかをイメージしていただけると、わかりやすいと思います。
監査以外の仕事へ転職しやすい
大手監査法人はEY・デロイトトーマツ・KPMG・PwCといったグローバルファームに属しています。
そのため、同じファーム内のつながりというのが強いです。
例えば、KPMGの場合は、グループ会社に以下のような会社があります。
・あずさ監査法人(監査)
・KPMG税理士法人(税務)
・KPMGコンサルティング
・KPMG FAS(アドバイザリー)
監査とは別のことをしたくなった場合に、大手監査法人であれば税務やコンサルティング、アドバイザリーなどに比較的簡単に転籍ができます。
この辺の制度はファームによって異なりますので、将来的に監査以外のことをしたいと考えている人は、就活の時に聞くとよいでしょう。
近年は横のつながりをどんどん強くしている印象がありますので、転籍は比較的にしやすい環境かなと思っています。
中堅監査法人の特徴

「中堅」と書きましたが、大手監査法人以外の監査法人の特徴と考えてください。
中堅監査法人も、準大手とそれ以外に分かれます。
ちなみに、準大手と呼ばれる監査法人は以下の通りです。
・太陽有限責任監査法人
・仰星監査法人
・東陽監査法人
・三優監査法人
・PwC京都監査法人
早い年次で多くの経験ができる
中堅監査法人は大手監査法人に比べて、人手不足になりがちです。
そのため、まだ経験の少ない会計士に様々な仕事が割り振られます。
例えば、監査には主査(インチャージ)と呼ばれる現場責任者の役割があります。
主査は監査チームをまとめたり、クライアントとのコミュニケーションの窓口になったり、難しい論点を検討したりと、監査を成功させるために多くのことを任される役割です。
これを聞くだけでも、なんか大変そうな役割ですよね。
大手監査法人であれば、早い人で3年目、普通で4年目~5年目で主査を担当する役割です。
一方の中堅監査法人は、早い人で2年目、普通で3年目で主査を担当します。
人材が少ない分、主査になれるチャンスは中堅監査法人の方が多いのかもしれません。
大企業とベンチャー企業の出世スピードをイメージすればわかりやすいかなと。
監査以外の業務が並行できる
大手監査法人での働き方は、とある監査部門に配属されたら、その部門のクライアントの監査しかできなくなることが多いです。
「別部門のクライアントの監査をしたい」
「IPO準備会社の監査をしたい」
「アドバイザリーもしたい」
と思っても、部署移動や転籍をしない限り、通らないことがほとんどです。
一方の中堅監査法人は、監査だけではなく、IPOやアドバイザリーのクライアントを並行することが多いようです。
監査をしながらアドバイザリーも並行できるチャンスというのは、中堅監査法人の方が可能性は多いかもしれません。
大手監査法人をオススメする4つの理由

大手監査法人にも中堅監査法人にも特有のメリットはありますが、多くの人にとって、会計士としてのファーストキャリアは「大手監査法人が無難」だと思っています。
中堅監査法人を否定するつもりはありません。
でも、中堅監査法人が合う人は、これからやりたいことが固まっていて、そのやりたいことに向かうには中堅監査法人が最適だと確信している人に限られます。
やりたいことがあまり決まっていない人は、まずは大手監査法人への就職をオススメします。
監査・会計の基礎基本を学びやすい
クライアントによって経営環境は変わるため、どういった監査手続がいいのか、どういう会計方針が適切なのかというのは、当然クライアントによっても変わります。
なので、監査現場ではカスタマイズされた監査手続や会計方針に触れることが多いです。
でも、見失っていけないのが、基礎基本の部分です。
基礎基本を知っているからこそ、様々なことに応用が利くようになります。
監査の現場では基礎基本のことを「あるべき」とか「Should be」と使います。
こういった基礎基本を学べるかどうかで、会計士として活躍できるかが決まります。
仕事に追われると、どうしても基礎基本はすっ飛ばして、目の前の監査手続を終わらせることに集中してしまいます。
そういったことが入所してからずっと続くと、気が付けば基礎基本の理解が甘いというポンコツ会計士が出来上がります。
誰もそうなりたくないと思いますが、環境が悪いと、残念ながらポンコツになります。
ちなみに、大手監査法人も中堅監査法人も、ポンコツは一定数います。
ただ、人員リソースの差や研修のクオリティの差から、大手監査法人の方が基礎基本がしっかりしている人が多いです。
「早くから経験を積める」ことがメリットとは限らない
早い年次で様々な勘定科目や監査論点に触れられる機会があるというのは重要なことです。
でも、目の前のことを消化できずに次々と手を付けるのは、かえって成長を阻害しますし、精神面にもよくないです。
スタッフの段階では、前期調書を参考になんとなく手続を終わらせることができます。
また、スタッフは責任は少ないため、適当に手続を終わらせたとしても、シニアスタッフやマネージャーが苦労するだけです。
でも、そういったことを繰り返してシニアスタッフやマネージャーに昇格すると悲惨です。
なぜなら、会計・監査の本質を理解しないまま役職が上がってしまい、責任も増えてしまいます。
これまでは分からなければ誰かに教えてもらえる立場だったのに、むしろ教える立場になってしまいます。
上の職階になるまでに、会計・監査をきちんと理解する必要があります。
そのためにはどうしても時間が必要なので、早い経験よりも、ゆっくりと確実な知識と経験の積み上げの方が、会計士の成長としてはむしろ効率的です。
加えて、早い年次からいろいろな経験ができるというのは、要は人が少なくてやることが多いということ。
つまり「激務」です。
大手監査法人でも繁忙期は基本的に激務ですし、チームによっては四半期手続やJ-SOX手続に追われて、夏休み以外は激務なんていう人も少なくないです。
人が少ない中堅監査法人は、それ以上の激務になることが目に見えています。
これをチャンスと捉えるかは人によりますが、僕は多くの人にとっては苦痛じゃないかなと思います。
選択肢が多い
監査法人での働きやすさというのは、監査チームの雰囲気によります。
もし、監査チームとウマが合わなかった場合は、気持ちよく働けなくなります。
大手監査法人でしたら、クライアント数が多いため、監査チームを変更するということを申し出やすいです。
部署の風土と合わなければ、部署ごと移籍するという手段もあります。
監査が合わないなら、同じファーム内の税務やアドバイザリーへの転籍という手段もあります。
さらに、最近は海外事務所への派遣や事業会社への出向というのも増えてきました。
会計士全員が監査に向いているわけではないので、別の選択肢があるというのはとても重要なことです。
海外経験や英語を使うチャンスがある
大手監査法人のクライアントは、基本的にはグローバル企業・大企業が多いです。
そのため、重要な海外拠点を持っているクライアントは多く、海外拠点の監査をすることがあります。
とはいえ、日本の監査人がわざわざ海外に行くパターンは少ないです。
パートナーやマネージャーの一部は行くこともありますが、スタッフレベルだと稀ですね。
こういう場合は、同じファームの海外事務所に監査を依頼します(リファードアウト)。
その過程で、英語で資料を読んだり、作ったり、メールを書いたり、MTGをしたりと、英語が求められる場合があります。
また、さっきの例とは逆に、同じファームの監査事務所から日本にある会社の監査を求められることがあります(リファードイン)。
これは、海外に本社があって、日本にも重要な事業拠点がある場合に発生しますね。
将来、英語を使ってビジネスをしたいと思っている人は、大手監査法人で英語を使いやすい部署や監査チームを志望するといいでしょう。
スタッフレベルで英語をちゃんと使える人はほとんどいませんので、すごい強みになります。
こういったチャンスが中堅監査法人にもありますが、大手監査法人に比べるとクライアント数に差があるため、チャンスの絶対数は少ないです。
この記事のまとめ
- 大手監査法人は職場環境がしっかりしているので会計・監査の基本を学びやすい
- 中堅監査法人は早い年次から様々な仕事に触れる機会がある
- 多くの人にとっては大手監査法人を選ぶのが無難
- やりたいことがはっきりしている人は中堅監査法人もあり
公認会計士のファーストキャリアは、その後の人生を大きく左右する可能性があります。
ぜひ、慎重に検討して自分に合った監査法人を見つけてください。