監査法人の公認会計士はド安定だけど、過信は禁物【次のキャリアを常に考えよう】

2020年4月12日

「公認会計士って安定してるって聞くけど、どういう点で安定してるの?」
「AIの登場で会計士の仕事がなくなる噂があるけど、本当のところどうなの?」

こんな疑問に答えます。

この記事の内容

  • 「安定」とは何か
  • 公認会計士が「安定」といわれる理由
  • 公認会計士の仕事がAIに取って代わられる可能性について

こんにちは、"ぬ"です。
大手の監査法人で一般事業会社の監査に従事しています。

世間一般的には、公認会計士が「安定」した仕事であるという認知があるようです。

ただ、具体的にどう安定しているのかということを、ちゃんと説明できる人はあまりいないと感じます。

また、「公認会計士だから安定」とひとくくりにするもの危険です。

「監査法人で勤めている場合」「個人事務所を構えている場合」「一般事業会社へ勤めている場合」など、パターンによって安定性は全然違います。

今回の記事では、公認会計士として一般的なキャリアである「大手監査法人で働いている場合」の安定性についてお話しします。

会計士試験に合格したほとんどの人が大手監査法人に入所するはずですので、公認会計士を志望している人の大体の人には当てはまる話かなと思っています。

大手監査法人以外のキャリアの安定性については、この記事には書かれていないので、申し訳ないですがブラウザバック推奨です。

「安定」とは何か

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仕事における「安定」とは、「今後食いっぱぐれないこと」だと僕は考えます。

では、どういった要素があると食いっぱぐれなくなるのでしょうか。

僕なりに考えてみたところ、次の5つの要素が多ければ多いほど、食いっぱぐれない可能性が高いという結論です。

  • 倒産する可能性が低い組織に属しているか
  • 安定した需要が見込める業界か
  • 参入障壁が高いか
  • (女性にとって)男女差別が少なく、復職しやすいか
  • 景気に左右されにくいか

これらの5つの要素が大手監査法人に当てはまるのか、次章から検討してみましょう。

大手監査法人の安定性は結構高め

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見出しがすでに結論ですが、さっきの5つの要素を検討したまとめは以下の通りです。

  • 倒産する可能性が低い組織に属しているか → ○
  • 安定した需要が見込める業界か → ○
  • 参入障壁が高いか → ○
  • (女性にとって)男女差別が少なく、復職しやすいか → ◎
  • 景気に左右されにくいか → ×

以降では、それぞれの判定理由を説明します。

組織再編は多いけど、なんだかんだ生き残る

「倒産する可能性が低い組織に属しているか」ですが、大手監査法人はこれに当てはまると考えます。

現在の大手監査法人はBIG4と呼ばれており、日本ではKPMGあずさ・EY新日本・トーマツ・PwCあらたの4法人です。

ただ、昔からずっとBIG4と呼ばれていたわけではなく、BIG8やBIG6と呼ばれていた時代があります。

1989年まではBIG8と呼ばれており、グローバルで大きい会計事務所は8つもありました。

そこから2002年のアーサーアンダーセンの消滅の間でBIG4まで減っています。

「大きい会計事務所が結構なくなっているじゃないか!」と思われるかもしれませんが、そのほとんどが合併です。

なくなった会計事務所もその名前が消えただけで、現在のBIG4のどこかには引き継がれていて、実質的には従業員もクライアントも継続しています。

また、2002年から現在まではBIG4体制が続いていますので、組織再編も落ち着いている状況といえます。

今後、どこかの監査法人が不適切なことさえしなければ、BIG4体制は継続していく可能性が高いので、かなり安定した組織であるといえます。

会計・監査は今後もなくならない

「安定した需要が見込める業界か」については、会計及び監査は資本主義が続く限り常に議論の対象になるので、当てはまるといえます。

会計は年々難しくなってきています。
次項の参入障壁と被るところでもありますが、資本主義が進めば進むほどより高度な会計処理が求められますので、むしろ会計の需要は増えると僕は考えます。

会計が難しくなれば、それに引っ張られる形で監査も難しくなります。

また、「企業の活動がきちんとしたものなのかチェックしてほしい」といった監査に対する社会からの期待も高まっていますので、監査の地位も向上が見込めます。

一方で、会計・監査の需要という観点だと「AI」の存在がちらつきます。

それについては以降の別章で説明します。 

参入障壁はかなり高い

「参入障壁は高いか」については、現状の試験制度が存続する限り、当てはまるといえます。

大手監査法人で正規雇用で働くには、論文式試験までの合格が必要です。

論文式合格までには最低でも2年の勉強が必要で、毎年の合格者は1,000人前後かつ合格率が10%程度です。

このように難易度の高い試験を合格しなければ働けない職場というのは、そうそうありません。

監査法人は女性にとってフェアな環境

「男女差別が少なく、復職しやすいか」については、日本では指折りの環境といっていいです。

大手監査法人はグローバルな考え方が根付いていて、日本企業以上に育休や復職に熱心です。

また、女性だからといって「昇進が遅い」「給料が少ない」ということが一切ありません。

むしろ、会計業界は女性の割合が少ないので、監査法人でキャリアを歩もうと思ってきちんと仕事していたら、上に行けば行くほど重宝される可能性が高いです。

女性として仕事も家庭も高水準で頑張りたいという人にとっては、かなり狙い目の環境であると思います。

リストラは普通にある

「景気に左右されにくいか」については、景気に監査法人の対応が極端に変わるので、残念ながら当てはまらないです。

その背景には、監査法人の収入源である企業からの"監査報酬"にあります。

企業にとって監査報酬は利益に一切つながらない費用という考え方が非常に強いです。

そのため、景気が悪くなると監査報酬は減らす方向になってしまいます。

監査報酬が減ると、監査法人は監査にかかるコストを減らさざるを得ません。

監査法人のコストのほとんどが人ですので、コストを減らすにはリストラという道しかありません。

前のリーマンショック時は結構ひどくて、使えないシニアスタッフとマネージャーは事実上の肩たたきにあったと聞きましたし、実際に退所したも何人も知っています。

とはいえ、監査法人に限らず、景気が悪いときはどの業界も給料の削減やリストラを行って企業存続に注力します。

景気に左右されにくいのは公務員ぐらいなので、この程度の不安定さは仕方ないと割り切るべきじゃないかなと思います。

AIが公認会計士の代わりになることは、10年以内はない

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会計・監査の需要のところでちらっと出てきた「AI」について、簡単に説明します。

2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文があります。

この論文は、AIや自動化が進むことによって消えてしまう職業を示唆しています。

この中で"会計監査員"は10年後に94%の可能性で消える職業として名前が挙がっています!

94%というのは結構な確率なので、今から公認会計士を頑張ろうと思っている人にとっては心を折るような論文です。

しかし、論文が発表されて6年経過した2020年現在、会計士という仕事が消えてなくなりそうな感じはまったくありません。

なぜ会計士の仕事が消えていないのか。

僕が考えるその要因としては、
「経済活動は常に新しいものが出てくる」
「紙ベースでの取引が多い」
「見積りをAIが正しく判断できない」
が挙げられます。

特に「経済活動は常に新しいものが出てくる」については、AIの対応はほぼ不可能でしょう。

AIはすでにある取引の正しさの判断には使えますが、まったく新しい概念の適正性の判断には使えません。

こういった分野には人間である会計士が、いろいろな視点から検討した結果の判断を説明しなければなりません。

AIは精度の高い結果を出すことはできますが、その計算過程がブラックボックス化していて、説明が不可能です。

説明ができないとなると、当然その判断を受け入れるのは難しくなりますよね。

他の2要因は、企業のデジタルトランスフォーメーションやAIの発展で解決する部分だと思います。

ただ、すごいスピードでその2要因も解決に向かっている感じは全くしないので、当分の間、会計士の需要は大きく減らないんじゃないかなと考えます。

監査法人を退所した後のキャリア

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ここまでで、大手監査法人は結構安定してそうだということはなんとなく分かっていただけたかと思います。

しかし、そんな安定している大手監査法人に定年までいる人は、そんなに多くないです。

監査が肌に合わないという人もいますし、繁忙期の激務がどうしても嫌という人もいますし、出世競争につかれて外に出たくなるということもあります。

また、監査法人は不景気になれば使えない人をリストラするという話をしましたが、このことを考えると、常に次のキャリアを見据えて準備をした方がいいです。

なので、入所して3年ぐらいしたら、今すぐ退所する気がなくても、次のキャリアを考えることをオススメします。

大手監査法人を退所した後のキャリアは、主に次のようなものが挙げられます。

  • 一般事業会社の経理財務や経営企画
  • 各種コンサルティングファーム
  • ベンチャー企業のCFO
  • 会計事務所の開業

これらのキャリアに進むのは、監査法人での勤務経歴があれば高いハードルではありません。

ただ、新しい職場で活躍できるかどうかは、監査法人時代に得た知識と経験によります。

ぼーっと監査法人で働いていると、次のキャリアにつながる知識と経験がなく、監査法人でしか働けない人材になってしまうかもしれません。

幸い、監査法人は繁忙期以外は比較的暇なので、勉強する気になれば結構できます。

より高い安定性を求めたいのであれば、次のキャリアを仮でもいいから決めて行動することをオススメします。 

まとめ:監査法人という安定の環境で更なる安定を手に入れられるかは、あなた次第

最後に、この記事を簡単におさらいします。

  • 大手監査法人はかなり安定している部類
  • 公認会計士がAIに代わることは10年ぐらいではほぼない
  • ずっと大手監査法人いるわけではないので、次の準備はちゃんとしておこう

いかがだったでしょうか。

食いっぱぐれないという観点から記事を書きましたが、大手監査法人は一般企業に比べて給料も高いです。

初任給は500万~600万は見込めますし、5年ぐらい働けば800万くらいは特別なことをしなくても手が届きます。

そういった環境をただ安定と考えることができますし、人よりもお金が豊かだから更なる努力をしやすい環境と考えることもできます。

公認会計士になってどんな生活をしたいのかを考えると、監査法人という安定した環境のあなたなりの使い方が見えてくるのではないでしょうか。

じゃーの。

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