【公認会計士】論文式の合格基準は「偏差値」【大問ごとに解く意識が合格への近道】

2018年10月30日

この記事に書いてあること

・論文式試験の合格基準とは何か

・合格基準(偏差値)の計算方法

論文式試験の合格基準は「偏差値」

まずは、公認会計士・監査審査会のHPから、論文式試験の合格基準を確認してみましょう。

 論文式試験の合格基準

52%の得点比率を基準として、公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率とします。

引用元:公認会計士・監査審査会

「全科目の合計偏差値が52以上であれば合格」ということです。

偏差値52というのは、およそ上位38%までのことです。割合でいうと、2.4人に1人です。短答式試験の合格率は各回10%程度ですから、それと比べると合格しやすい感じがしますね。

平成29年度の試験では、論文式試験受験者数の3,306人に対して合格者が1,231人となっています。論文式試験を受験した人のうち、37.5%の人が合格している計算です。ほぼ理論値どおりですね。

 足切りの基準

ただし、1科目につき、その得点比率が40%に満たないもののある者は、不合格とすることができます。

引用元:公認会計士・監査審査会

「科目の偏差値が1つでも40未満だったら不合格」ということです。

ただ、足切りについてはあまり意識する必要がありません。

偏差値40というのは、およそ下位15%~20%以下のことです。割合だけで考えると「ありえるかも」と思うかもしれません。

しかし、合格ラインを超えている人で足切りになっている人は、ほとんどいません。平成29年度の試験では、足切りで不合格になった人は11人のみです。合格基準を超えた受験者のうち1%未満の超レアケースです。苦手科目をよほど放置した場合以外、足切りはありえないというのが分かっていただけると思います。

偏差値は「大問ごと」に計算されている

論文式の偏差値計算は、一般的な偏差値計算とは違った計算方法です。これを知っているかどうかで、論文式試験の解き方が変わります。

受験者の多くはこのことを正確に知りません。ですから、あなたが論文式の偏差値計算を理解して試験に臨むことができたら、その時点で他の受験生よりも有利に試験に挑むことができます。

 論文式試験の科目偏差値の計算方法

  1. 「大問ごとの偏差値」を計算
  2. 「大問ごとの偏差値」を配点で加重平均して「科目の偏差値」を計算

「大問ごとの偏差値」を計算

ほとんどの科目には「大問」が2つ(財務会計は3つ)用意されています。まずは、その大問ごとに偏差値を計算します。

今回は、租税法をベースに説明します。租税法は大問が2つありますので、大問それぞれで偏差値を計算することになります。たとえば、大問1の偏差値が「54.25」、大問2の偏差値が「57.5」といった感じですね。

「大問ごとの偏差値」を配点で加重平均して「科目の偏差値」を計算

「大問ごとの偏差値」が計算できたら、それを合算します。ただ「大問ごとの偏差値」をそのまま合算すると、偏差値100といったとんでもない数値が出るので、配点を基準とした加重平均で調整します。

いきなり加重平均してもよくわからないので、まずは大問ごとに加重平均調整後の数値を計算してみます。

租税法の配点は大問1が40点、大問2が60点です。

そのため、大問1の場合は次の式になります
「52.45(大問1の偏差値) ✕ 40(大問1の配点) / 100(租税法全体の配点) = 21.7」

大問2の場合はこんな式ですね。
「57.5(大問2の偏差値) ✕ 60(大問2の配点) / 100(租税法全体の配点) = 34.5」

大問ごとの偏差値の調整が終わったら、あとは合算するだけです。その結果、「21.7 + 34.5 = 56.2」となり、租税法の最終的な偏差値は「56.2」となります。

参考までに、説明に使った数値と同様の試験結果を貼り付けておきます。租税法の数値が説明どおりになっていることを確認してみてください。

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「大問ごとの解答時間を均等にすること」が合格への近道

論文式試験は「大問ごと」に偏差値計算されるのが、分かってもらえたと思います。

じゃあ、この事実を論文式試験にどう活かせばいいのでしょうか。

簡単です。「大問ごとの解答時間を均等にすること」です。なぜなら、偏差値を上げるのは難しく、偏差値を下げるのはとても簡単だからです。

ここでは検討を簡単にするために、論文式試験が大問2つで配点がそれぞれ50点だった場合を考えてみましょう。あなたが大問1を0点(最低点)だった場合、大問2で満点(最高点)を取ったとしても、理論上では偏差値50付近までしか挽回できないでしょう。論文式試験の合格ラインは偏差値52なので、合格は絶望的です。

さらに、この仮定には無理な点があります。それはあなたが大問2で満点(最高点)を取ることです。論文式試験の約3,000人の受験生の中で、大問1つとはいえ、トップの成績を取る自信のある人はどれくらいいるのでしょうか。たとえ得意論点だったとしても、多くの受験生にもあなたにもそんな実力も自信もないはずです。

一方で、0点(最低点)を取るのは簡単です。なぜなら解答をしなければいいだけ。やろうと思えば簡単に0点を取ることができます。

これらを考慮すると、論文式試験で合格するためには、まずは0点(最低点)を取ってしまうリスクを避けるべきです。その対策が、「大問ごとの解答時間を均等にすること」です。この意識があれば、どれかの大問を丸々解答しないということを絶対に避けられます。また「得意論点・苦手論点で必要以上に時間を使いすぎる」といったことも少なくできます。

「得意論点に時間をかけて偏差値は伸ばせないの?」と思われるかもしれません。考え方は間違っていませんが、得意論点だからといって確実に偏差値を伸ばせるかは微妙なところです。同じ時間を使って、得意な論点で10点取るよりも、苦手な論点の問題を2問で5点ずつ取ることが簡単なことも、論文式試験ではよくあります。

実際の試験では特定の問題で予定より長く時間を使ってしまい、大問ごとの解答時間を均等にすることはできないです。ただ、大問ごとの解答時間を意識していれば、解答を出すのに詰まってしまってもほどほどの解答で諦めて、次の大問へ移ることができます。そうすることで、大きな失点を防ぐことはできます。

 会計学の偏差値計算の補足

会計学は補足が必要です。なぜ補足が必要なのかは、総合偏差値を求めてみると分かります。さきほど使った試験結果のサンプルで総合偏差値を計算してみましょう。

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総合偏差値は「全科目の合計偏差値 ÷ 科目数」という式で求められます。そのため、会計学から経営学までの偏差値を合計した「296.95」を、科目数の「5」で割れば、総合の偏差値が求められるはずです。

しかし、その方法で計算すると総合の偏差値は「59.39」となります。サンプルの「59.75」とはズレが生じていますね。

この原因は「会計学」の偏差値にあります。

論文式試験の総合偏差値は、科目ごとの配点を考慮する必要があります。

会計学の配点は300点で、他の科目の配点は100点です。論文式試験の総合偏差値ではこの配点の傾斜を考慮するため、「全科目の合計偏差値」を求める際に会計学の偏差値に「3」を乗じています。つまり、会計学は3科目分として計算するんです。

そのため、分母となる科目数も「5」ではなく「7」となります。

このことを考慮すると、以下のような式になります。

全科目の合計偏差値:
60.65(会計学) * 3 + 56.45(監査論) + 64.05(企業法) + 56.20(租税法) + 59.60(選択科目) = 418.25

総合偏差値:
418.25(全科目の合計偏差値) / 7(科目数) = 59.75

これで「59.75」という総合偏差値の数値が正しく求められました。

「会計学」は論文式の合否にとって重要じゃない

「会計学の偏差値を3倍にする」ということを聞くと、会計学が合否を左右しそうに思えます。ぼくもこの話を知った当時はそう思いました。

しかし、会計学が「財務会計(200点)」と「管理会計(100点)」が合わさったものと考えると、大した話ではないことが分かります。

まず、管理会計は監査論などの配点が100点の科目と同じです。会計学として数値が合わさっているのでわかりにくいだけですが、管理会計として独立して計算しても最終的な結果はほとんど変わりません。

次に、財務会計は配点が100点の科目を2回やっているようなものです。そのため、他の科目と比べたら、財務会計が得意なら偏差値を稼ぐことが出来ますし、苦手なら偏差値を失います。

この点において、論文式試験において財務会計は優遇されていると言えます。

ただ、論文式試験では財務会計で失敗しても他の科目で挽回はしやすいです。なぜなら、論文式試験は「合格が偏差値基準」「財務会計以外の科目数が5つ」だからです。

たとえば、論文式試験での財務会計の偏差値が47だったとしましょう。合格ラインは偏差値52ですから「-5」となります。論文式では財務会計の偏差値を2倍にしますので、財務会計の失敗で「-10」も合格ラインから下回ることになります。

一見、合格が絶望的に見えますが、そうでもありません。

偏差値60の科目が1つでもあれば「+8」で、財務会計の失敗がほとんどチャラになります。偏差値60は上位16%ぐらいで取れますから、1科目ぐらいこのような好成績が出ることは普通にありえます。合格基準が偏差値だと、こういった1科目の好成績で挽回が可能なのです。

また、財務会計以外に5科目もありますから、その5科目すべてで合格ラインより「+2」の偏差値、つまり偏差値54以上を取ることでも挽回できます。好成績が出なくても、全体的に少しずつ平均を上回っていても、合格ができるのです。

短答式試験では、このような挽回ができません。

仮に財務会計が合格ライン(得点率70%)より30点も低い得点だったとしましょう。

1科目で30点を挽回しようとすると、ほぼ満点を取る以外ありません。

また他の3科目全体で挽回しようとしても、1科目あたり10点も多く取らないといけません。1科目で挽回するより可能性はありますが、なかなかハードルが高いことが感覚的に分かっていただけるでしょう。

論文式試験の会計学の偏差値計算を知っている人は「会計学が重要!」と思い込みがちです。たしかに、財務会計が優遇されているのは正しいですから、決して間違ってはいません。

ただ注意してほしいのが、論文式試験は会計学(特に財務会計)ばかりやっていても、合格できる試験ではないということです。会計学の失敗を他の科目でカバーできるという話をしましたが、裏を返せば、他の科目をしくじれば不合格になるということです。

短答式試験では財務会計の重要性がかなり高いですので、その意識のまま論文式試験に挑むと痛い目を見ます。

論文式試験はすべての科目が合否を左右するということを意識して、勉強をしてほしいです。

この記事のまとめ

  • 論文式試験の合格基準は「偏差値」
  • 大問ごとに「偏差値」を計算している
  • 「大問ごとの解答時間を均等にする」という意識が、失敗するリスクを抑えてくれる
  • 論文式試験の財務会計は優遇されているけど、それだけで合格できる試験じゃない

けっこう長く書いてしまいましたが、それだけ論文式試験の合格基準の計算はめんどくさいものです。ここまで読んだあなたは、そのめんどくさい合格基準を十分に理解できたと思います。また、その理解を試験勉強や試験に活かすことができるはずです。

論文式試験を合格するためのポイントは非常に簡潔です。

ずばり「すべての科目をまんべんなくやること」です。

会計学(特に財務会計)だけを頑張っても、論文式試験で合格することはできません。できる限り苦手をなくし、偏差値を大きく下げる要素をなるべくなくすことが、合格への近道となります。

このことを意識して、勉強を頑張ってください。

ではでは。

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