
「短答式試験と論文式試験には、どんな違いがあるの? 違いによって勉強方法や試験の戦略も違ってくるの?」
公認会計士試験の勉強を始めたばかりのあなたは、短答式試験と論文式試験の違いにピンと来ていないかもしれません。
そんな人の疑問に答えます。
この記事の内容
- 短答式試験と論文式試験の違いは、主に「科目」「出題範囲」「解答方法」「合格基準」
- 勉強方法での大きな違いは「アウトプット」
- 短答式試験と論文式試験では、解く順番が違ってくる
公認会計士になるには、短答式試験と論文式試験の両方の試験に合格する必要があります。
勉強を始めたばかりなら、短答式試験も論文式試験も違いがないものと感じるかもしれません。あるいは「短答式試験が簡単で、論文式試験が難しい」と考えているかもしれません。
しかし、その考えは少し危険です。
短答式試験と論文式試験は、まったく別の試験だと思ってください。
そのほうが対策をしやすいので、効率よく合格できます。
なぜまったく別の試験だといえるのか。
それは、短答式試験を余裕で合格できても、論文式試験で苦戦する人がいるからです。もちろん、その逆の人もいます。
ぼくの友人には「短答式試験は1発で合格したけど論文式試験は3回も落ちた(三振)」という人もいました。
短答式試験に合格できるということは、論文式試験も合格できる実力は十分にあるはずです。それでも論文式試験に落ちてしまうということは、論文式試験の試験にアジャストできていなかったということです。
そう考えると、短答式試験と論文式試験では、勉強方法も試験の戦略も分けて考えるのが合理的です。
この記事では、短答式試験と論文式試験の主な違いの紹介と、違いによってどんな注意をしたら合格に近づくのか、という話をしたいと思います。
目次
短答式試験と論文式試験の違いは、主に「科目」「出題範囲」「解答方法」「合格基準」
細かい話をすると、短答式試験と論文式試験ではこの4項目以外にも違いがあります。たとえば、「1年に行われる試験の回数」や「試験時間」などですね。
ですが、合否に大きくかかわるのはこの記事で取りあげる4項目ですので、今回の記事では細かい話は割愛します。気になる人は、ある程度勉強が進んでから調べてみてください。
科目:短答式試験は「4科目」。論文式試験は「6科目」
短答式試験は4科目
- 財務会計
- 管理会計
- 監査論
- 企業法
論文式試験は6科目
- 財務会計
- 管理会計
- 監査論
- 企業法
- 租税法
- 選択科目(経営学・経済学・民法・統計学)
選択科目は「経営学」「経済学」「民法」「統計学」の4科目から1つを選びます。難易度や習得の早さから、ほとんどの人が「経営学」を選びますし、この記事を読んでいるあなたもぜひ「経営学」を選択してください。
論文式試験の試験内容を 公認会計士・監査審査会のHPでちゃんと見ると、「財務会計」「管理会計」の文字がありません。これは「会計学」として統一されているからです。
例年、会計学は論文式試験の2日目に行われます。その午前中が管理会計で、午後が財務会計です。
出題範囲:短答式試験は「浅く・広く」。論文式試験は「少し深く・広く」
出題範囲は公認会計士・監査審査会のHPで公開されているので、確認してみましょう。

今回は平成30年度の出題範囲の1ページ目を持ってきてみました。1ページ目は財務会計の出題範囲の一部ですね。
<出題項目の例>の次から記載されている部分が、短答式試験の出題範囲です。
黄色く塗られた項目が、論文式試験での「重点出題項目」となります。重点出題項目と回りくどい言い方になっているのは、重点出題項目以外からも出題されるからです。
ただ、過去の試験ではそのほとんどが重点出題項目からの出題です。重点出題項目以外の出題があったとしても、他の受験生も対策は十分ではなく正答できませんから、合否に影響は与えないです。
このように、財務会計などの短答式試験と論文式試験で共通している科目は、論文式試験のほうが試験範囲が狭くなります。
ただ、論文式試験では新たに「租税法」「選択科目」が追加されます。
2科目が追加されることを考慮すると「論文式試験は短答式試験よりも広い範囲を勉強しなければならない」とぼくは考えています。
出題範囲は全科目が公開されていますので、ぜひ一度目を通してみてください。
解答方法:短答式試験は「マークシート方式」。論文式試験は「論述式」
短答式試験はマークシート方式

この画像は平成30年度の第2回の短答式試験の財務会計の解答用紙です。
このように、すべての科目において計算問題・理論問題を問わず、すべてマークシート方式です。
マークシート方式のいいところは、マークさえしておけば正解する可能性があることです。
わからないからといって白紙で出すのは、もったいなさすぎます。適当に解答しても六分の一で正解しますから、絶対に何かしらの選択肢を埋めておきましょう。
論文式試験は論述式

この画像は平成30年度の論文式試験の財務会計(会計学の午後)の解答用紙の一部です。
短答式試験のマークシート方式とは、まったく違うことがわかるでしょう。
すべての科目において計算問題・理論問題を問わず、すべて黒のボールペンで解答しなければいけません。
マークシート方式の短答式試験とは違って、論文式試験はとりあえず書くだけでは点数はもらえません。
計算問題は何桁もある答えを正確に記述しなければいけませんし、理論問題は要点を押さえた文章でなければ点数がもらえません。
論文式試験は、実力が明らかに出る試験方式といっていいでしょう。
合格基準:短答式試験は「点数」。論文式試験は「偏差値」
短答式試験と論文式試験で、合格基準となる点数の計算方法が違います。この違いによって、試験で解答するときに意識することが変わってきます。
短答式試験の合格基準
総点数の70%を基準として、公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率とします。
引用元:公認会計士・監査審査会
短答式試験は「点数」で争われます。
短答式試験は4科目で500点満点です。その70%である350点が目安の合格ラインになります。非常にわかりやすい基準です。
注意すべきは、どの科目の点数の重みも同じということです。
企業法(100点満点)で満点を取ると100点ですし、財務会計(200点満点)が得点率50%しかできなくても同じく100点です。
そのため、短答式試験の500満点のうち、200点の配点がある「財務会計」の重要性はとても高いと言えます。
短答式試験の点数計算の詳細は、次の記事をどうぞ
論文式試験の合格基準
52%の得点比率を基準として、公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率とします。
引用元:公認会計士・監査審査会
論文式試験では「得点比率」で争われます。
得点比率ではわかりづらいので「偏差値」と読み替えてしまいましょう。
ものすごく大雑把にいってしまえば、すべての科目が偏差値52以上であれば合格ということです。
偏差値勝負ですので、どれだけ自分の点数が悪くても、他の受験生がもっと悪ければ、自分の偏差値はいい結果になります。逆に、自分の点数がいくら良くても、他の受験生の点数がより良ければ、自分の偏差値は悪い結果になります。
そのため、論文式試験は「受験生の多くができる基本的な論点を正解する」ことが重要になります。
論文式試験の偏差値計算で注意してもらいたい重要な点が1点あります。
それは、偏差値は「大問ごと」に計算されるということです。科目の総点数から偏差値を計算しているわけではありません。
詳しくは長すぎるので説明しませんが、「大問ごとに偏差値計算される」というのは、試験の解き方に大きな影響を与えます。ぜひ覚えておくようにしてください。
論文式試験の偏差値計算の詳細は、次の記事をどうぞ
勉強方法の大きな違いは「アウトプット」
短答式試験と論文式試験の違いを説明してきましたが、なんとなくわかっていただけたと思います。
ここからはその違いをもとに、どんな勉強方法をすべきか説明します。
「インプット」の勉強方法は、短答式試験も論文式試験も共通
短答式試験も論文式試験も広い範囲で勉強をしなければいけないのは「科目」「出題範囲」を考えれば共通です。また、受験生の多くが正答できる問題を確実に正答するという力を身につけなければ合格できないのも共通です。
であれば「テキストを読み込む」という勉強方法は、短答式試験でも論文式試験でも重要です。
予備校のテキストは、本試験でよく出題される論点を効率よくまとめてあります。そのため、勉強の軸はテキストなのです。
テキストを読むときに注意するポイントは、短答式試験と論文式試験で少し違います。短答式試験は広い「広い知識」を習得するようなイメージ、論文式試験はより「深く理解」するようなイメージを意識したほうがいいです。
ただ、短答式試験でも「深く理解」することは、きちんと暗記するために必要なプロセスです。論文式試験でも「広い知識」を持っていなければ、さまざまな問題に対応できません。
そのため、短答式試験も論文式試験も「広い知識」「深い理解」を意識したほうが合格に近づきます。
このように、インプットの方法は短答式試験も論文式試験もほとんど同じなのです。
短答式試験の「アウトプット」の勉強方法
短答式試験で特徴的なことは「マークシート方式」であること、この1点です。
短答式試験のマークシート方式で点数を取るためのアウトプットの勉強方法としては、次の2つが重要です。
- 早く正確に解答する練習
- 分からない問題を当てる練習
早く正確に解答する練習
短答式試験の計算科目(財務会計・管理会計)は時間に追われることが多いです。そのため、計算問題も理論問題も普段から早く解答する練習をしましょう。
「勉強を重ねていれば自然と早くなる」と思いがちですが、そんなことはありません。
「ゆっくり解いて正解できる能力」と「早く解いて正解できる能力」は別物です。普段からスピードを意識しないと、早く解答することはできません。
計算問題なら「1問あたり5分」、理論問題なら「1問あたり2分」といった感じで、目標時間を決めて勉強をするとスピードアップできるようになります。
分からない問題を当てる練習
答練や模試を受けたときに、ぜんぜん分からない問題でも「チャレンジする」「とにかく埋める」という意識を持つことが大切です。
なぜ、こういった意識が大切なのか。
それは、本試験で自信を持って解答できる問題が半分くらいしかないからです。
これは、あなたが勉強不足といったことではなく、試験の出題の都合で仕方ないのです。
そこで、正解を積み重ねるために大切になるのが「当て勘」です。
答練や模試を繰り返していくと、まったく知らない問題でも取っ掛かり方が分かるようになります。ちょっとオカルトチックですが、選択肢の中のひっかけポイントが分かったり、明らかに間違いの選択肢が分かるようになってきます。
こういった「当て勘」が育ってくると、自信を持って解答できない問題でも、6択中2択ぐらいまで選択肢を絞れるようになります。2択でしたら50%の確率で正解できる計算です。
典型論点は早く正確に解き、分からない問題は当てる確率を少しでも上げる努力を積み重ねる。これをできた人が短答式試験に合格することができます。
論文式試験の「アウトプット」の勉強方法
論文式試験の特徴は、「長文を書く」ということに尽きます。
あなたは普段から文章を書き慣れていると言えますか。
書き慣れていたとしても、論文式試験で点数をもらえるような書き方ができていると、自信を持って言えますか。
そんな人はほとんどいないはずです。
そのため、論文式試験では次の2点の練習が重要になります。
- 文章を書くこと
- 点数をもらえる文章を構成すること
文字を書くこと
頭で分かっていても、うまく言葉にできないという経験は普段からあると思います。
論文式試験の勉強を始めたばかりの頃は、この感覚に悩まされます。
頭ではなんとなく分かっていても「専門用語が出てこない」「具体例をうまく言葉にできない」ということが多いです。
こういった悩みを先生に相談すると「インプット不足」と一蹴されることがあります。確かにそういった要素も大きいのは事実です。
ただ、短答式試験に合格するほどの基礎知識がありながら文章をかけないというのは、ただのインプット不足というには根拠が弱いです。
ぼくはいくらインプットしても、なかなか文章が書けませんでした。そこで、うまく文章ができない論点を、自分なりにまとめてアウトプットするという練習をするようにしました。
すると、徐々にですが所見の問題でも文章を書けるようになり、論文式試験に受かるレベルまでにはなりました。
もし文章が書けなくて悩んでしたら、とりあえず書いて慣れることをオススメします。
点数をもらえる文章を構成すること
専門用語や具体例を書けたとしても、それで点数がもらえるかはまた別問題です。文章として説得力が弱いと、点数をもらうことはできません。
なぜなら、採点する試験委員は人間だからです。点数をもらうためには自分が問題を理解して解答していることを試験委員にうまく伝えないといけません。
たとえ、問題に適した言葉が書けていても、支離滅裂な文章であれば試験員に伝わりません。伝わらなければ、当然点数はもらえません。
試験員に伝えるためには、正しい文章構成が必要です。問題の背景や根拠、結論を適切に配置することで、はじめて試験委員に伝わる文章となります。
そのため、正しい文章構成をする練習をする必要があるのです。
短答式試験と論文式試験では、解く順番が違ってくる
ここからは、試験をどのように解いていくか、軽めの試験戦略の話をします。
そこでキーとなる違いが「合格基準」です。
短答式試験は「どこから解いてもいい」
短答式試験は合格基準が「点数」です。
単純に点数を積み重ねれば合格できるのですから、解きやすい問題を最初に解いて、難問をなるべく後に残すのが鉄板です。
そのため、苦手な問題はなるべく後回しにして、時間が余ったらやるぐらいの気持ちでOKです。まずはできる問題・簡単な問題で点数をかき集めることが、短答式試験では重要になります。
論文式試験は「大問ごとに解く」
一方で、論文式試験はむやみやたらに解いてはいけません。
論文式試験は「偏差値」で合格が決まりますが、その偏差値は「大問ごと」に計算されます。
この論文式試験の特性により、解きやすい・簡単だからといって特定の大問を集中すると、他の大問が手薄になり、結果として全体の偏差値が落ちてしまうということがあり得るのです。
そんな結果になる理由は、論文式試験の採点がけっこうアバウトだからです。
得意論点でもうまく書けたと思っても点数につながらないことがありますし、苦手論点を適当に書いたらけっこう点数が来たということもよくあります。
このことはイマイチ分からないかもしれませんので、論文式の答練をやるようになったら思い出してください。少なからずピンと来ると思います。
もちろん、解きやすい問題・簡単な問題から着手すべきなのは論文式試験でも重要です。ただ、そのことに集中しすぎると、論文式試験が持つ特性にやられて偏差値が思ったより低いということがあるということは覚えておいてください。
こういった論文式の特性を踏まえると、論文式試験では大問ごとになるべく均等に時間を使うことを意識することをオススメします。
まとめ:短答と論文をきっちり分けて勉強しよう!
記事のポイント
- 短答式試験と論文式試験は「まったく違う試験」と考えることで、合格可能性を上げることができる
- インプットは、短答式試験も論文式試験も基本的には同じ
- 短答式試験は早く正確に解く能力と、「当て勘」を磨く必要がある
- 論文式試験は文章を正しく書ける能力が大切
- 短答式試験は解ける問題から解いて、点数をどんどん積み重ねる
- 論文式試験は大問ごとに解答する意識を持つ。解ける問題ばかりやっていると、最終的な偏差値が悪くなることがある
じゃーの。